人は本来、危険さえなければ自分から動き、役に立とうとする存在です。 にもかかわらず、現場では指示待ちどころか「指示があっても動かない」状態が起きており、その原因は個人のやる気ではなく環境側にあると語られています。
人が動かないのは怠慢ではない

人間は動物であり、本来は安全が確保されていれば探索し、関わり、誰かの役に立とうとします。 しかし現実の職場では、指示待ち、さらには指示があっても動かない姿が珍しくありません。

ここで問われているのは「やる気の有無」ではなく、「動いた方が危険だと学習してしまった結果ではないか」という視点です。 動いたら責任だけ増える、失敗したら評価が下がる、余計なことをすると怒られる、といった経験が積み重なると、「動かない方が安全」という環境適応が起きます。


6歳の女の子に見た「人が自然に動く条件」

著者が美容院でパーマをかけていたとき、バックヤードから聞こえてきたのは「次、何やればいい?」「何かお手伝いすることある?」という6歳の女の子の声でした。 指示される前から自分から仕事を探し、任され、周囲の大人から「ありがとう」「頑張ってるね」と声をかけられて嬉しそうにしている様子が印象的だったと語られています。

この子には、次のような条件がそろっていました。

不安がない(お母さんがそばにいて、「やってみていいよ」と許容している)。

役に立てている実感がある(仕事を任されている)。

褒められ、承認されている(頑張りに対してポジティブなフィードバックがある)。

お小遣いも、インセンティブ理論もありません。 安心と承認がある場では、人は自然に自発的に動くという「原型」がそこに見えていたとしています。


大人が「動けなくなる」構造

一方で、大人は組織の中で「動かない方が安全だ」と学習していきます。

動いたら責任だけ増える。

失敗したら評価が下がるので、上に振った方が安全。

余計なことをすると怒られる。

こうした経験が積み重なると、「黙っていた方がいい」「動かない方がいい」という判断が行動の標準になります。 これはやる気の欠如ではなく、環境に対する適応であり、コロナ禍以降の「人と関わらない方が安全」という価値観の強化も、動きをさらに抑制した要因として挙げられています。

著者自身もスタッフから「否定的なことを言われると動けなくなる」と指摘され、自分の言動が動けない環境をつくっている可能性に気づいたと振り返っています。


経営・管理職に求められる「変えること/変えないこと」

企業は変化に適応し、新しいチャレンジを続けなければ成長できません。 コロナ禍で人も組織も環境も変わりましたが、「何でも変えれば良い」わけではなく、変えるべきことと変えてはいけないことを見極める必要があります。

変えてはいけないものとして挙げられているのは、「動いた人がバカを見ない環境」です。

動いた人を結果だけで裁かない。

挑戦した人の行動そのものを認める。

新しいことをやりたいと言う人の動きを、否定や揶揄で止めない。

本来、人は動く存在であり、その感覚を壊さないことが、経営者・管理職の大切な役割だとまとめられています。


「自然体で動ける組織」に近づくために

美容師である母親と6歳の女の子の関係には、役職も権限もありません。 それでも、「ここにいて大丈夫」「役に立てている」という安心感があるからこそ、自発的な行動が生まれていました。

著者は、このエピソードから次のような問いを投げかけています。

組織の中で、自然体で動きたい人の動きを無意識に止めていないか。

若手や部下が「次、何をやればいいですか」と聞いてきたとき、どう返しているか。

人が動けなくなる環境を、自分自身がつくっていないか。

人は動く生き物であり、その前提を守りながら、安心感と承認が循環する職場をつくることが、商品開発や事業成長の土台になるというメッセージで締めくくられています。